憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
(どこまで正直に話したらいいのか、結構難しいな――)

 私は頭の中で言葉を組み立てつつ、真摯に話を聞いてくれるふたりにわかりやすいように、ぽつりぽつりと告げる。

「上條課長に対する恨みだけで、最初は資料を作っていました。調べれば調べた分だけ、どんどん恨みが募っていったんですけど、それと同時に……。えっと会社で一生懸命に仕事をしている人を欺いて、自分たちだけで楽しんでいる姿を知っていくうちに、おかしいって思いはじめました」

「そうね、おかしいわよね」

 何度も頷きながら肯定してくれた村田先輩に伝えたことで、救われた気がした。もっと別の方法を使って、良平さんたちを訴えることもできたけれど、私の中ではこれがベストなやり方だと考えたし、否定されなかったことに、心底安堵した。

 今一度背筋を伸ばして深呼吸を終えてから、思いをのせるように語りかける。

「私はここで働いて、たくさんのことを学ばせてもらった恩があります。村田先輩をはじめ、工藤部長にもお世話になりました。その大切な人たちが働く会社のお金を不正に使って、騙しているなんて許せない……」

 言いながら、持ってきていた資料をカバンから取り出し、ふたりに見えるように長机の上に広げた。

「おふたりの目で、どうか確認してください。わからないところがあれば、説明します!」

 パイプ椅子から立ち上がって、深く頭を下げる。

「美羽ちゃん、頭を上げてちょうだい。私たちも貴女の資料は、実際頼りにしているんだからね」

「村田先輩……」

「拝見させてもらうわね」

 村田先輩は持ってきているパソコンを起動しながら素早く目を通し、隣にいる工藤部長に回していく。最初のうちは紙をめくる音が、質素な室内に響いていたのだけれど。

「なるほどね。ふたりそろって就業中なのにもかかわらず、うまいこと人目を忍んで、卑猥な行為に及んでいたようね? 午前中から盛っていたときもあったのか。呆れる……」

 村田先輩は見ているページを行き来しつつ、言葉だけで私に訊ねた。

「はい。場所の特定までは無理でした。どの会議室も、同じようなデザインなので。備品庫は配置されてる物品の感じから、別の部署だというのがわかった次第です」

 私の指摘に感心したのか、村田先輩は書類を見ながら、何度も頷きつつ口を開く。

「これは明らかな改善点ね。なにか問題があったときに、場所の特定ができないのは痛いことだもの」

 そう言って、パソコンになにかを素早く打ち込んでいく。

「僕たちだけじゃ、こんなことは思いつかなかったな。会議室のデザインなんてそんなに気にするものじゃないし、どれも同じっていうのがデフォだった」

「ホントそれよ。予算の関係もあるけど、パッと見で、どこどこの会議室だというのが、すぐにわかる仕様にしなきゃ……」

 赤いフレームの眼鏡をあげながら、決まり悪そうに渋い表情を浮かべる村田先輩に、工藤部長は嬉しそうにほほ笑んだ。対極的なふたりの様子に、私からは声をかけづらい。
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