憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
窓辺に立っている細身の背中に縋りつかないように、両手に拳を作ってなんとか耐える。そんな私に、村田先輩が静かに話しかけた。
「上條課長について、その立場を失墜させる内容がたくさん書かれているのに対して、長谷川春菜さんについては触れているものの、そこまで細かく書いていなかったのは、理由があってなんでしょ?」
「それは……」
仕事のできる村田先輩を、私ごときが欺くなんて、できるわけがないとわかっていた。あのコに復讐することを知ったら、お母さんたちのように、きっととめられる。
私の口がそのせいで重くなってしまい、返事に戸惑っていたら、村田先輩が口火を切った。
「私なら浮気相手にも、同等の罪を与えたくなる。むしろ、それ以上のなにかをぶつけるわ。自分の好きだった人を卑怯な手を使って、横から奪った相手だからなおさら」
「村田先輩……」
「しかもそのせいで流産しているのに、なにもしないというのも違和感があったのよ。多分工藤部長も感じていたところはあったけど、あえて深掘りしなかったんでしょうね。心のキズを深くしないように、他人を思いやることのできる、とても優しい人だもの」
「ごめんなさい、言えません……」
とめられたくなかった私は、復讐することをどうしても言えなかった。
「なにをするにしても、私は止めないわよ。たとえそれが犯罪でもね」
窓の外を見ながら告げられた言葉は信じがたいもので、変な声が出そうになった。復讐をとめないって言っただけじゃなく、犯罪をおかしてもいいなんて、普通の人は絶対に言わないセリフなのに。
「安心してください、犯罪なんてしませんから」
「犯罪はしない。だけど復讐はするのね?」
窓の外を見ている村田先輩の肩に切りそろえられた髪が、サラッと揺れた。まるでカーテンのように動いたそれを、綺麗だなと思いながら呑気に見つめることができるのは、間違いなく変だと思う。
大事なやり取りをしてる最中だというのに、こんなふうに余裕を持って構えることができるのは、復讐に自信があるからなのかもしれない。
「本当に、村田先輩には敵わないな。どんなに煙に巻いても、騙されることなく核心を突く……」
「美羽ちゃんよりも長く生きてるせいよ。いろいろ経験しているおかげで、騙されずに済むの」
私と顔をあわせないで、ずっと話をしている村田先輩。醜い私を見ないように、あえてそうしてくれるから、打ち明けることができてしまう。
「……幼なじみの手を借りて、彼女に復讐してる最中です」
きっと対面していたら、言い出せずにいた。
「どんな手を使ってるのか聞いていい? 下手なことして美羽ちゃんが潰れたりしたら、私たちまで一緒に蹴躓くことになる可能性があるから」
ほほ笑みながら振り返った村田先輩に、明確な理由を告げられたため、復讐する手立てと、それを考えてくれた学くんの先輩について教えた。
「なるほどね。私でもそんなこと、全然思いつかないわ。相当な知略家なのね、幼なじみの先輩」
「女心が読めるとかなんとか……」
(百発百中なんて恥ずかしすぎて、絶対に言えない――)
「ちなみに職業はなに?」
「カメラマンと聞いてます。幼なじみも同じなので」
「ちょっと連絡先教えてくれない? 美羽ちゃん経由じゃなく、私個人から連絡したほうが早いしね」
「わかりました。えっと、一ノ瀬さんの連絡先は……」
ポケットからスマホを取り出して、電話帳を見ながら呟くと。
「一ノ瀬? 下の名前は?」
「すみません、名字しか知らないんです」
「そう、わかった。そのままラインで送って」
その指示のもと、一ノ瀬さんの連絡先を村田先輩に送信したことで、自動的に太い連携がとれてしまったことに気づいたのは、随分あとになってからだった。
「上條課長について、その立場を失墜させる内容がたくさん書かれているのに対して、長谷川春菜さんについては触れているものの、そこまで細かく書いていなかったのは、理由があってなんでしょ?」
「それは……」
仕事のできる村田先輩を、私ごときが欺くなんて、できるわけがないとわかっていた。あのコに復讐することを知ったら、お母さんたちのように、きっととめられる。
私の口がそのせいで重くなってしまい、返事に戸惑っていたら、村田先輩が口火を切った。
「私なら浮気相手にも、同等の罪を与えたくなる。むしろ、それ以上のなにかをぶつけるわ。自分の好きだった人を卑怯な手を使って、横から奪った相手だからなおさら」
「村田先輩……」
「しかもそのせいで流産しているのに、なにもしないというのも違和感があったのよ。多分工藤部長も感じていたところはあったけど、あえて深掘りしなかったんでしょうね。心のキズを深くしないように、他人を思いやることのできる、とても優しい人だもの」
「ごめんなさい、言えません……」
とめられたくなかった私は、復讐することをどうしても言えなかった。
「なにをするにしても、私は止めないわよ。たとえそれが犯罪でもね」
窓の外を見ながら告げられた言葉は信じがたいもので、変な声が出そうになった。復讐をとめないって言っただけじゃなく、犯罪をおかしてもいいなんて、普通の人は絶対に言わないセリフなのに。
「安心してください、犯罪なんてしませんから」
「犯罪はしない。だけど復讐はするのね?」
窓の外を見ている村田先輩の肩に切りそろえられた髪が、サラッと揺れた。まるでカーテンのように動いたそれを、綺麗だなと思いながら呑気に見つめることができるのは、間違いなく変だと思う。
大事なやり取りをしてる最中だというのに、こんなふうに余裕を持って構えることができるのは、復讐に自信があるからなのかもしれない。
「本当に、村田先輩には敵わないな。どんなに煙に巻いても、騙されることなく核心を突く……」
「美羽ちゃんよりも長く生きてるせいよ。いろいろ経験しているおかげで、騙されずに済むの」
私と顔をあわせないで、ずっと話をしている村田先輩。醜い私を見ないように、あえてそうしてくれるから、打ち明けることができてしまう。
「……幼なじみの手を借りて、彼女に復讐してる最中です」
きっと対面していたら、言い出せずにいた。
「どんな手を使ってるのか聞いていい? 下手なことして美羽ちゃんが潰れたりしたら、私たちまで一緒に蹴躓くことになる可能性があるから」
ほほ笑みながら振り返った村田先輩に、明確な理由を告げられたため、復讐する手立てと、それを考えてくれた学くんの先輩について教えた。
「なるほどね。私でもそんなこと、全然思いつかないわ。相当な知略家なのね、幼なじみの先輩」
「女心が読めるとかなんとか……」
(百発百中なんて恥ずかしすぎて、絶対に言えない――)
「ちなみに職業はなに?」
「カメラマンと聞いてます。幼なじみも同じなので」
「ちょっと連絡先教えてくれない? 美羽ちゃん経由じゃなく、私個人から連絡したほうが早いしね」
「わかりました。えっと、一ノ瀬さんの連絡先は……」
ポケットからスマホを取り出して、電話帳を見ながら呟くと。
「一ノ瀬? 下の名前は?」
「すみません、名字しか知らないんです」
「そう、わかった。そのままラインで送って」
その指示のもと、一ノ瀬さんの連絡先を村田先輩に送信したことで、自動的に太い連携がとれてしまったことに気づいたのは、随分あとになってからだった。