春色の恋−カナコ−[完]
「疲れた?」

素敵な横顔に見とれていた私は、どうやら河合さんの話を聞いていなかったようで。

心配そうな顔で私を見降ろしてきた河合さんに、心配をかけてしまった。

「あ、大丈夫、です」

恥ずかしくなって、思わず握られていた手をきゅっと強く握ってしまった。

「俺、すげー緊張してるんだけど」

そんな私の手をさらに強く握り返してくれて、まっすぐ前に向きなおった河合さん。

その横顔は、ほんのり赤くも見えて。

「コウヘイに殴られたらどうしよう」

「えー!おにいちゃんはそんなことしませんよ!」

冗談を言って私を笑わせてくれたりして。

あっという間にお店に着くと、お店の前におにいちゃんが立っていた。

「おにいちゃん」

にっこり笑ったおにいちゃんの視線が、つながれた私たちの手に向けられたのがわかった。

でも、おにいちゃんの表情は変わることがなくて。

再び上がってきた視線が私をとらえると、目を細めて笑ってからお店の中へと入っていった。

「行こうか」

そんなおにいちゃんの姿を確認してから、河合さんも私をお店の中へと促して。

店員さんに案内された個室は、とても落ち着いた雰囲気で、なんだか自分が場違いな気がしてとても落ち着かない。
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