春色の恋−カナコ−[完]
「ちゃんと帰ってこいよ。明日も仕事だろ?」

「夕飯食べたら送るから」

いつの間にか私の横にいた河合さんが、きゅっと私の肩を抱きながらおにいちゃんと目を合わせていた。

「はは。まあ、今日中にな」

笑いながらおにいちゃんが歩きだして。

その背中を見ながら、涙があふれ出て止まらなくなってしまった。

「さあ、カナコちゃん、どこ行く?」

私の前に立ち、止まらない涙を温かい手で拭いてくれて。

我慢できずに河合さんの胸に飛び込んだ。

私の背中にまわされた手も暖かくて。

おにいちゃんとは違うけど、同じ大きな優しい手。

私はずっと、この手を握りしめて生きていくんだと思う。

「散歩でもするか!」

優しく包まれていた腕が解かれたかと思うと、両脇の下に手が入ってきてふわっと持ち上げられてしまった。
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