春色の恋−カナコ−[完]
朝。

いつものように朝食の準備をするためにキッチンへ向かうと、おにいちゃんが眠そうな顔をしてコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるところだった。

「おはよう」

私の姿を確認してから、やさしい笑顔であいさつをしてくれるおにいちゃん。

「おはよ。今帰ったの?」

昨日とおなじネクタイを見て、寝ていないんだと確信する。

「ああ、少し前にね。カナコの顔を見てから少し眠ろうと思って」

いつもそうだった。

明け方帰宅しても、朝私が家を出る時には起きて私を見送ってくれるおにいちゃん。

夜会えない時は、朝顔を合わせるようにしてくれていた。

「ご飯は?食べてから寝る?」

あわててエプロンを腰に巻き付け、冷蔵庫を開けながらおにいちゃんに問いかけるけど、返事が返ってこない。

そっと振り向きながら確認すると、半分眠っているのか頭がゆらゆら揺れていて。

思わず笑いがこみあげてきてしまった。

おにいちゃんのそんな姿、めったに見られないし。

でも、私のために頑張って起きていてくれたんだから、笑ったら失礼だよね。

「おにいちゃん、ありがとね。一人でできるから、ゆっくり休んで」

そっと起こして寝ぼけているおにいちゃんを寝室へと連れて行き、布団に横にした。
< 113 / 241 >

この作品をシェア

pagetop