春色の恋−カナコ−[完]
信じているなんて言われたの、いつ以来だろう?

言葉に出さなくても、おにいちゃんが私のことを信じてくれていたのはわかっていたし、私だってたった一人のおにいちゃんを信頼していた。

でも、こうして言葉で伝えられると、なんだか嬉しくて涙が出てしまう。

「きちんとお返ししますから」

「ああ、よろしく」

おにいちゃんに見送られながら家を出て、河合さんのマンションへと向かう。

いつものように車ではなくてバスで来たという河合さん。

二人で手をつないでバスに揺られながら駅前まで向かった。

駅をはさんで反対側にある河合さんのマンション。

何度か来たはずなのに、今までにない緊張感からかつないでいる手が汗ばんでしまった。

「緊張してるの?」

鍵を開けながらくすくすと笑う河合さんは、いつもと同じで余裕な感じ。

緊張しているのは、私だけ?

いざ、外泊なんて言われてしまうと、すごく恥ずかしいけど。

早ければ2週間後には帰国する両親。

いくら社会人になったからって、結婚前の女の子が彼氏の家にお泊まりしますなんてとてもじゃないけど、言えないし。

おにいちゃんの優しい気持ちをありがたく頂いて、明日まで河合さんと一緒に過ごす。
< 141 / 241 >

この作品をシェア

pagetop