春色の恋−カナコ−[完]

河合さんの口から出た名前で、きれいなその女性が佐藤さんだということが分かったけど。

目の前に座っている私のことは完全に無視で、彼女の視線はずっと河合さんを捉えて離れない。

「妹さんとお食事だったの？私もご一緒してもいいかしら？」

妹？それって私のことだよね。

明らかに私より年上だと思う佐藤さんは、河合さんの返事も聞かずに河合さんの隣に座ろうとして。

彼女が引いた椅子を、河合さんがさっと元の位置に戻して座れないようにしてくれた。

「佐藤さん。失礼じゃないかな？彼女とデートなんだけど」

いつも私にはとても優しい口調で話しかけてくれる河合さん。

佐藤さんに対するその口調は、どきっとするほど低くて怖い。

「え？彼女？この子が？」

信じられないというように目を見開いて私を見てくる佐藤さんは、じっと私を見つめてからくすくすと笑いながら尚も河合さんの隣に座るつもりなのか椅子に手をかけた。

「こんな子と食事をするために私の誘いを断ったの？」

ちらっと私を見てから笑っている佐藤さんに、彼女の発した言葉の意味が理解できないくらいにびっくりしてしまって私は何も言えなかった。

「佐藤さん。申し訳ないが俺はあなたと食事をするつもりはないので、お引き取り願いたい」

「もう河合さんったら。こんな子と一緒だからって恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ」

私は気にしませんからなんて笑いながら河合さんの隣のイスを引くけど、椅子に手をかけている河合さんがそれを許すはずもなくて。

すくっと立ち上がった河合さんは、佐藤さんを無視して私の横へ来ると「お店を変えようか」といつもの優しい口調で私のイスをすっと引いてくれた。

「ちょっと！」