春色の恋−カナコ−[完]

「カナコちゃん、怖い思いをさせてごめん」

お店の前ですぐに捕まえたタクシーに乗り込み、まだ震えが止まらない私の肩をそっと抱きながら反対の手で私の頭をやさしくなでてくれていた。

さっきのは、何？

佐藤さんは河合さんに気があるんじゃないの？

佐藤さんとはどんな関係？

疑問ばかりが頭の中をぐるぐると支配して、かといってうまく言葉にすることもできなくて。

ただ、やさしい河合さんに身体を預け、止まらない震えが早く収まるようにと自分自身をぎゅっと抱きしめていた。

タクシーが止まり、河合さんが料金を払ってから降りると、そこは河合さんのマンションで。

「大丈夫？」

部屋に上がる前に私の顔を覗き込んできた河合さんは、辛いのなら家まで送るけど、と前置きをしてから私を部屋の中へ入れてくれた。

今、一人になるのは怖い…。

それに、疑問ばかりで頭がパンクしそうだし、このままじゃとてもじゃないけど眠れそうにもないし。

河合さんがそっとソファに座らせてくれて、温かいお茶を持ってきてくれた。

一口飲むと、なんだか少し落ち着いた感じで。

目の前には河合さんがいてくれて、心配そうに私の手をを握りながら黙って頭をなでてくれている。


「あ、あの」