春色の恋−カナコ−[完]

「はい！」

突然名前を呼ばれてびっくりしたせいで、思わず大きな声で返事をしてしまって。

「あはは、元気がいいね、俺営業の大野と言います。こっちは後輩の中野ね」

「中野です、よろしくね」

「浅野カナコです。よろしくお願いします！」

こうしていろんな人に会うたびに、みなさん丁寧に自分の名前を名乗ってくれるので覚えやすくて助かっている。

自分の席へ戻り、午前中にもらった表で名前と場所を必死に頭に叩き込む。

大野さんと中野さんは隣の席なんだ。

フロアを見渡して表と実際の席を確認して。

あー、また見たことのない顔が…。きっと朝は外回りとかで居なかったんだろうな。

本当に覚えることができるんだろうか。

午後からはビル内を案内してもらったり、社内の仕事を部署ごとに説明してもらったり。

とにかく、最初は会社のことをよく覚えることが私の仕事のようで、忘れてしまいそうなことは必死にメモを取った。

一日が終わると、なんだか頭が痛いくらい。

「お疲れ様。初日は説明ばかりで大変だったでしょう？」