春色の恋−カナコ−[完]
いつの間に部屋に来たのか、白いタキシードに身を包んだおにいちゃんがそばにいて。

「コウヘイ」

にっこり笑ったカオリさんは、握ったままの私の手をさらに強い力できゅっと握りしめた。

「これから式なんだから、大人しくしていないと体力持たないぞ」

ふんわりしたドレスからは、お腹の大きさはわからないけど。

少しだけ目立ち始めたカオリさんのお腹の中には、順調に育っている新しい命。

「はーい。でも、私カナコちゃんのお姉さんになれてうれしいのよ」

今にも抱きついていそうなカオリさんを見て、呆れるおにいちゃん。

私の横で笑いをこらえている河合さんは、口元を手で押さえていた。

「では、ご出発のお時間です」

担当の人が控室まで呼びに来てくれて、主役の二人は表へと並んで歩いて行った。

会場となるレストランの前には素敵な庭があり、晴天に恵まれた今日はガーデンウエディングを行うことになっていた。

出席者の前で行う人前式。

家族や友人など、大切な人たちの前で愛を誓い合うなんてすごく素敵。

私たちも控室から庭へ出ていくと、すでに沢山のお客さんが並んで主役の登場を待っていて。

「カナコ、こっちよ」

前のほうから母に呼ばれ、河合さんも一緒に指定された場所へと向かう。
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