春色の恋−カナコ−[完]
「泣きすぎ」

退場する時に、泣いている私を見ておにいちゃんがふわっと笑って。

そっと私の頭をなでてくれた。

「おにいちゃん、大好き!」

「ありがとう、カナコ」

二人を見送った後、横にいた河合さんがきゅっと私を抱きしめてくれた。

しばらく止まらなかった涙も、ほかのお客さんがレストランの中へ入ったころにやっと止まって。

何も言わずにずっと私を抱きしめていてくれた河合さんは、遠慮がちに私の頭をなでた。

「なんかさ…」

顔を上げられない私の頭に顎を乗せるようにして、河合さんがぽつりとつぶやく。

「…焼きもちだな」

「え?」

言葉の意味がわからなくて、河合さんを見上げると、少し照れたような顔をして私を見降ろしていて。

「コウヘイに、焼きもち?」

「河合さん…」

切なそうな顔をして私を見つめる河合さんの背中に、ぎゅっと腕を巻きつけて抱きついた。

私の背中に回っている河合さんの腕にも、少しだけ力が入ったのがわかって、安心する。

「あんなふうに俺も告白されたいなぁ」
< 206 / 241 >

この作品をシェア

pagetop