春色の恋−カナコ−[完]
「カナコちゃん、食べてる?」

横から心配そうに河合さんが覗き込んできて。

正直、胸がいっぱいで食事なんて喉を通らなくて。

なれない着物を着ているせいもあるのかも。

運ばれてくる料理はとてもおいしいと思うけど、目の前にはいつまでもお皿が残された状態だった。

「食べてるけど、量が多いね」

きっと、普段ならぺろりと食べられる量なんだろうけど、

今日の私にはちょっと厳しいかなぁ?

「カナコはコウヘイにべったりだったから」

私たちの会話を聞いていたお母さんが、横から口をはさんできて。

「まあ、どちらかというとコウヘイがカナコにべったりだったのかもしれないけどねぇ」

独り言にしては大きな声で話しているお母さんは、昔のことを懐かしむようにしておにいちゃんを見ていて。

「一時は心配したのよ。この子大丈夫かしら?って」

「えー?」
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