春色の恋−カナコ−[完]
くすくす笑うお母さんは、あまりにも私に執着するおにいちゃんが本当に心配だったようで。

「カナコ覚えていないかしら?私がコウヘイに抱きつくのを禁止したこと」

「…あ、そんなことあったかも」

いつもいつもおにいちゃんにギュッと抱きついていたくて、学校から帰ってきたおにいちゃんを玄関まで迎えに行っては抱きついていたっけ。

いつからかそれが出来なくなったのは、お母さんがおにいちゃんに禁止令を出したからだったんだ。

「そうなんですか?」

横で聞いていた河合さんも、興味津津といった感じでお母さんに話しかけてきて。

なんだか自分のことを言われているのもあり、すごくはずかしいけど。

私が見えていなかったおにいちゃんの姿にも、正直興味がある。

「そうなのよ。カナコが生まれたときから、コウヘイはカナコだけが大切なんだって言ってたから」

おにいちゃん…。

赤ちゃんのころの記憶はないけど、残っているアルバムを見るといつもおにいちゃんが一緒だった。

「そのコウヘイが結婚だなんて…」

盛り上がっているおにいちゃんたちをみて、ハンカチで目頭を押さえるお母さん。

その横で、同じように目頭を押さえながらビールを飲んでいるお父さん。
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