春色の恋−カナコ−[完]
その顔がなんだか可愛くて。

お父さんの前なのに、顔がにやけてしまう。

「いらっしゃい」

車で来ると思っていた河合さんは、どうやらバスに乗って来たようで。

「食後にどうかと思って」

河合さんの腕の中には、紙袋に入った沢山のオレンジ。

こんなにたくさん?と思ったけど、どうやら会社の近くに八百屋さんがあって閉店前で安くなっていたらしい。

この袋を下げて、スーツで電車に乗って帰宅したんだ…。

どんなに想像しても似合わないけど、どんな顔をしていたんだろう?

私のこととか考えてくれたのかな。

嬉しくて、受け取ったオレンジを大切に抱えながら冷蔵庫へ入れた。

「さあ、そろったからいただきましょう」

食卓にきれいに並べられた食事は、いつもと同じ普通の家庭料理で。

「普通でごめんなさいね。でも、もうお客さんだとは思っていないから」

エプロンを外しながらお母さんが笑っていて。

お父さんも当たり前のように河合さんにビールを勧めて。
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