春色の恋−カナコ−[完]
「今すぐじゃないけど、近い未来にお嫁にもらうから」

河合さんの手で顎を持ち上げられたかと思うと、あっという間に唇を奪われて。

一瞬、ここが外で他にも人がいることを思い出したけど、今はそんなことを気にする余裕もなく。

すぐに離れた唇を名残惜しいと思いながら、お互いの額を合わせ、ありがとうとささやいた。


水族館の中を、しっかり手をつないで歩きながら、河合さんはおにいちゃんとの約束というものを私に話してくれた。

「初めてカナコちゃんに会った日のこと、覚えてる?」

「はい。覚えてますよ、はっきりと」

おにいちゃんが仕事帰りに連れてきたんだよね。

そうとは知らずに駅まで迎えに行った私はすっぴんだったっけ。

恥ずかしかったから、よく覚えている。

「あの日、コウヘイに言われたんだ。大切な妹だから、中途半端なら許さないって」

「え?」

そういえば、私の目の前で二人で部屋に入っていったことがあったような…。

「あの時から、もう俺は決めていたんだよ。絶対カナコちゃんと幸せになるって」

おにいちゃんに、はっきりと私への気持ちを話してくれたという河合さん。

私はそんなこと知らなくて、自分のことでいっぱいいっぱいだったのに。

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