ショートケーキと羊羹の空想論
 私は俯きがちにおしぼりを握った。

「だってあん子先輩、さっき猫に話しかけてたから。変身できるんでしょ? て」

 聞かれていたのか……!

 瞬間、頬から耳にかけて熱くなる。視線を手元に据えたまま、私は変な汗をかいていた。

「だから空想するのとか好きなのかなと思って」

「っあ、あれは空想じゃないのよ。ただの勘違いだっただけで」

「勘違い」

「あの白い猫が店員のお兄さんに変身したと思ったの。変身するのを見たと思って……」

 返答が予想外だったせいか、彼が「え」と言葉を詰まらせる。

「実際は木で視界の切れ間もあったし、私の早とちりだったって分かったけどね。なんか……腑に落ちないの。そこの空き地で猫を見失ったんだけど、忽然と消えた気がして」

 それはあれですよ、と彼が教えてくれた。

「地下通路に繋がる階段があって、そこが普段から猫の通用口になっているそうなんです」

「階段。そんなの、なかったけど……」

「猫が入って来たのに気付いたら飼い主さんが蓋をするからですよ。普段は目立たないようにしているらしいです」

「そうなんだ。……ガッカリした」
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