ショートケーキと羊羹の空想論
 幼いころからあらゆる空想に耽るのが好きな私は、将来の夢を作家や脚本家と決め、進路は専門学校一択だ。既に願書の提出も済ませている。なので大学受験とは無縁というわけだ。

 朝食を食べ終え、歯を磨いてから、洗面台の鏡に向かって髪を整えた。おろしっぱなしの黒髪をいつも通りの三つ編みにする。

 銀縁眼鏡に黒髪のおさげ。まるで昔の女学生みたいだ。

 気を抜いたらまたあくびがもれた。執筆に熱が入っていたとは言え、さすがに三時半までは起きすぎだったな、と軽く後悔する。

「行ってきまーす」

 黒い門扉を押して出たところで、あ、と口を開ける男子と目が合った。斜向かいに住む二つ年下の後輩、真柴(ましば)楽人(らくと)くんだ。

 出たな、陽キャ男子。

 む、と口元を結んで気を引き締めた。

「おはようございます、あん子先輩」

 真柴くんがほとんど無表情で近づいてくる。

「お、おはよう……」

 明るい茶髪を感じよくセットし、整った顔立ちをしたイケメンだ。スラリと背が高く、相変わらずモテオーラが漂っている。

 彼は一ヶ月少し前に引っ越してきて、三週間ほど前からなぜか私に懐いてくる稀少な人間だ。
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