ショートケーキと羊羹の空想論
「あん子先輩?」

 高校の正門が近づいたところで、適当な相槌をしていたのがバレて、真柴くんに顔を覗き込まれる。とりわけ男子に対する免疫が薄いので、顔面が沸騰したやかんのように熱くなった。

「そっ、それじゃあ私。急ぐからっ」

 サッと手だけを上げて別れの挨拶を口にすると、私は昇降口へ向かって一目散に駆け出した。

 目立つ彼と並んで歩くのは、ただでさえ気が引けるのに、校内で一緒にいるところなんか誰にも見られたくない。周りから何を言われるかわからない。

 陽キャの真柴くんは私の地味な見た目を笑わないし、私の夢も馬鹿にしない心の綺麗な持ち主だ。

 けれど私と真柴くんが並ぶとどこか"ちぐはぐ"で釣り合いが取れないのも自覚している。

 すれ違った女子の目をうっかり引いてしまうイケメンな彼と、その他大勢に分類されるモブキャラの私。

 学年も違うんだし、学校で話しかけるのだけは勘弁してほしい。そう思っていた。

 *

 びっしりと並んだ背表紙を指でなぞりながら、私は図書室で本を探していた。

 猫が変身する物語を書くうえで、登場させる魔法使いの出自についてもっと深く掘り下げようと考えていた。
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