ショートケーキと羊羹の空想論
 不思議に思いながらも隣りの本棚に目を向けた。図書室の本棚は背面のないオープンラックのそれであるため、本と本の隙間から光が漏れ出たのかもしれない。

 私は足を進め、隣りの本棚へ移動した。本が一冊床に落ちていて、ちょうど真ん中あたりのページが広げて置いてあった。122ページ目だ。

「……もしかして」

 私はサッと歩み寄り、その本を手に取ってみた。分厚い、いかにもファンタジーです、と言いたげな内容が書いてある小説だ。

 もしかして、この中に誰かが吸い込まれたんじゃ?

「さっきの光はその現象で?」

 だとしたらこれは異世界転移、かもしれない。昔の漫画にもそういうエピソードがあったはずだ。

 ハッと息を呑んだとき、「あん子先輩?」と背後から名前を呼ばれた。振り返って見ると、安堵したような表情で頭を触る真柴くんが立っていた。

「あん子先輩。今そこで気絶してませんでしたか?」

「……え?」

 気絶、と聞いて首を傾げる。もしかして、うたた寝をしていたことを言っているのだろうか。

「ううん、ちょっと眠くてうとうとしてただけ」

「え、あー……そうなんスか」
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