ショートケーキと羊羹の空想論
昨日借りて帰ったと思われるファンタジー小説から目を上げて、真柴くんが私を見た。その視線が流れるように彼の腕時計に落ちて、囁き声で私に言った。
「午後四時三十五分……。そろそろ始めましょうか」
「うん」
彼の手が122ページ目を開く。昨日同様に、図書室の床に本を開いた状態で置いて、私たちはその側に腰をおろした。
私も彼も何も言葉を発しなかった。ただ問題のページを眺めて、そこに綴られた文章を一心に読み込んでいた。
火を吹くドラゴンについて書かれていた。主人公と思われる青年とドラゴンのやり取りが詳細に綴られており、その様子が情景として頭に浮かんだ。それ以外の登場人物は全く出てきていない。
しんと静まり返った図書室で、時計の秒針だけが私たちの間を埋めた。五分経ち、十分が経ち、昨日時計を確認した四時四十八分を過ぎ去った。
結果として、本は本のままで何も起こらなかった。
「もしかしたら、一人じゃないと駄目なのかも」
ポツリと呟いた私を見て、真柴くんが「かもしれませんね」と相槌を打った。
「またがっかりしてます?」
肩を落とした私を、真柴くんの笑顔が慰めてくれる。
「午後四時三十五分……。そろそろ始めましょうか」
「うん」
彼の手が122ページ目を開く。昨日同様に、図書室の床に本を開いた状態で置いて、私たちはその側に腰をおろした。
私も彼も何も言葉を発しなかった。ただ問題のページを眺めて、そこに綴られた文章を一心に読み込んでいた。
火を吹くドラゴンについて書かれていた。主人公と思われる青年とドラゴンのやり取りが詳細に綴られており、その様子が情景として頭に浮かんだ。それ以外の登場人物は全く出てきていない。
しんと静まり返った図書室で、時計の秒針だけが私たちの間を埋めた。五分経ち、十分が経ち、昨日時計を確認した四時四十八分を過ぎ去った。
結果として、本は本のままで何も起こらなかった。
「もしかしたら、一人じゃないと駄目なのかも」
ポツリと呟いた私を見て、真柴くんが「かもしれませんね」と相槌を打った。
「またがっかりしてます?」
肩を落とした私を、真柴くんの笑顔が慰めてくれる。