ショートケーキと羊羹の空想論
「室内が光ったと言う先輩の考えを否定したいわけじゃないんです。俺もあの時間、同じ場所にいたから言えるんですけど。実は何かが光るような現象は起こってなくて……」

「……そんな」

 ということは、つまり。

「本が光ったんでも、この図書室が光ったんでもなくて。ただ私の脳が無意識に光を感じただけってこと……?」

「おそらくは」

 それまで見ていたスマホの画面を閉じて、無言で真柴くんに返した。

 私が体験したのは単なる生理現象の一つで、勘違いと思い込みから生まれた異世界への扉は、実際のところ無かったということだ。

「ハァ、がっかりしたよ。思いっきり」

 座り込んだままで立ち上がる気力すらわかない。「すみません」と真柴くんが謝るので、ううん、と言って首を横に振った。

「謝らないで。真柴くんは正しいことを教えてくれただけだから」

 そう言って半ば自分に呆れて笑みをもらすと、真柴くんは困った顔で曖昧に頷いた。

「でもよく知ってたね、そのジャーキングとかいうの」

「前にテレビか何かで観たことがあったんで」

「そっか」
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