ショートケーキと羊羹の空想論
 スクっと立ち上がった真柴くんに「はい」と手を差し出されるので、特別断る理由もなく彼の手を取った。大きくて骨っぽい、男子の手だ。

 そう思うと変に緊張して、汗をかいてしまう。不規則になった心音にも気付かぬふりでやり過ごした。

「自分が体験したこと、無駄だとか思ってます?」

「……うん。思いっきり」

 そうかなぁ、と続け、真柴くんがふわりと微笑んだ。

「将来の夢のために、ネタが一つ増えたと思えばラッキーですよ」

「でも、つまらないわよ。ファンタジーなことが起こったと思ったのに、実際はこんな……現実的なオチ」

「そうですか? たとえ現実的な現象であっても、俺は夢のある発想ができるのはいいことだと思いますけど」

「そう?」

「あん子先輩にしかできないことです」

 私にしか、できないこと……?

 馬鹿な思い込みや勘違いを、ここまでプラスに受け止めてくれる彼は、やはり優しくて心が綺麗な人だ。

「ありがとう……」

 普通だったら呆れられるような行動を起こす私を、真柴くんは笑わない。

 結局、問題となったファンタジー小説は真柴くんが娯楽として読むために再度持ち帰ることになった。

「ねぇ、真柴くん」

 夕暮れ時の帰り道で、まっすぐ帰宅する私と彼は、当然下校も同じくしている。
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