ショートケーキと羊羹の空想論
 リラックスしているところを邪魔するのは気が咎めるが、私はおそるおそる猫に近付いた。

 まずは「こんにちは」と話しかけてみる。

「あなた、人間になれるんでしょう?」

 猫に警戒心はない様子で、舐めた前足で今度は顔を洗っている。明日は雨ということか。

「ねぇ……誰にも言わないよ。名前はなんていうの?」

 じっと待っていたらそのうち猫が喋りだすのではないかと想像し、心臓がドキドキした。さらに声をひそめる。

「この間、男の人に変わるのを見ちゃったの。変身……できるんだよね?」

 必死に、しかし、こっそりと猫に話しかけるのだが、猫はニャーとしか言わない。

「あん子先輩」

 ふいに背後から声をかけられて、硬直した体がビクッと震えた。その隙に猫が逃げてしまう。

「ああ、逃げちゃった」

 残念そうに呟く私を見て、真柴くんが慰めるように言った。

「あの猫。商店街の裏にあるカフェで飼っているみたいですよ」

「え」

「行ってみます?」

 私は彼を見上げて小刻みに首肯した。
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