ショートケーキと羊羹の空想論
 猫が人間に変わったのを目撃したのは、カフェの隣りにある空き地だったはずだが。店の扉を開けてお先にどうぞと手招いてくれる真柴くんに、躊躇しながら足を踏み入れた。

 カフェに入ると、店の雰囲気に合わせてしっとりとしたジャズがかかっていた。ソファー席やテーブル席、カウンター席が並び、お客さんはまばらだが、みな思い思いの時間を過ごしていた。

「いらっしゃいませ」

 案内役のウェイターに声をかけられ、私は「あ」と口を開けた。

 変身猫が姿を変えた、あの綺麗な男性が店員として働いていた。

「もう変身したんだ」と残念な思いがつい口からこぼれた。ウェイターの男性はキョトンとし、隣りに立つ真柴くんに目を向けた。

「二名さまでしょうか?」

「はい」

「空いているお席にどうぞ」

 綺麗な一礼を残してウェイターさんが立ち去った。

 あ、とふいに真柴くんが呟いた。

「ほら、あの猫でしょ?」

 彼が指さした方向に目をやると、カウンターの奥にあるStaff Onlyと書かれた銀色の扉の前に、白い猫がお行儀よく座っていた。ブルーの首輪もそのままだ。
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