君の香りに囚われて
一度一線を越えてしまえば、タブーなど存在しなかったようだ。
ティンに懇願されるような連絡を受ける度にマンションに行き、そして肌を重ねる。
ティンは何かから逃れる様に必死に苺花の肌を求め縋った。
苺花も求められるがままティンに身を任せていた。
実際、男の人の腕に抱かれる、求められるという安心感と快楽を知ってしまったので拒むことなどできなかった。
ただ互いに現実から目を背け、溺れていた。
ヨルさんはあの無断外出の後、ティンにのスマホに位置情報を提供するアプリを入れて自分がいつでも確認できるようになったことで安心したのか、マンションに突然やって来ることがなくなった。
ティンのグループのサポートが終わり、自分の仕事が忙しくなったこともあるのかもしれない。
苺花の方にも連絡がなかった。
苺花もなんとなく後ろめたくてヨルさんに自分から連絡することもなかった。
なので、そんな現実から目を背けるように2人はお互いに溺れるしかなかったのだった。
日に日にティンがつける印の跡が増えていく。
ティンの部屋で過ごす間はティンの洋服を着せられている苺花。
そうするとティンがとても喜ぶから、いつでもその喜びに応えようとしていた。
小さな苺花がブカブカの洋服を着て、
腕まくりをしている。
そこから伸びる白くて細い腕。
その腕を撫でながら満足そうに微笑むティン。
それで家事をしてたりすると余計に堪らないようで、
「可愛い。」
と言いながら常に苺花に、くっついていた。
ティンの好みにどんどん染まっていく、、、。
肌を重ねる度に苺花は自分の身体が作り変えられていくような不思議な感覚を覚えていた。
蛹から蝶に生まれ変わる様に。
自分では気がついていなかったが、その度に苺花は美しくなっていった。
ティンの希望で耳にピアスも開けた。
「俺のピアスはヨル兄さんに開けてもらったんだ。
だから苺花のピアスは俺が開けたい。」
そう言って苺花の耳を親指と人差し指で挟んで何度もつまみながら薄く笑う。
嗜虐心を少しはらんだ瞳だった。
そんな瞳で見つめられると、ぞくりと背中に電気が走った様な感じがして、
なんでもティンの言うことには頷いてしまう。
保冷剤で冷やされた耳たぶにピアスを開ける位置を決めて印をつける。
消毒されたニードルと呼ばれる器具を印に当てがうと、力を込めて穴を開ける。
「んっ!!!」
ニードルが刺さる瞬間。
カッと全身に熱が通り過ぎる。
痛みで苺花がぎゅっと目を瞑る。
その隙にティンがキスを落とす。
「もう!人が真剣に我慢してるのに!」
と抗議すると
嬉しそうな顔で
「だからね。ご褒美。」
と言いながら笑う。
ニードルで開けた後にピアスを通す。
本当は太めのシャフトのファーストピアスをつけるのだが、ティンがプレゼントしてくれたプラチナのダイヤのピアスをそのまま身につけた。
右の次は左とティンが手際良く作業する。
「ちゃんと毎日消毒してね。
定着するまでしばらくかかるよ。」
痛みでジンジンする耳たぶをティンが触れて、消毒してくれる。
「痛いー!」
涙目の苺花が恨めしそうな顔でティンを見上げる。
「お揃いだね。」
心底嬉しそうなティンの顔。
ダイヤのピアスはティンが最近身につけいるものと同じだった。
お揃いのピアス。
先日の雑誌の撮影の時に使用したアクセサリーで、ティンがとても気に入って買い取った物で、同じものをマネージャー経由で追加注文した物だった。
小ぶりな一粒ダイヤ。
ユニセックスなデザインでとてもシンプルだけどカッティングが素晴らしくどこから見ても存在感を感じることができる輝きだった。
それが縁となり、次回のアクセサリーブランドの広告アンバサダーとなるそうだ。
きっと駅や街角でポスターを見る機会があるだろう。
想像するとすごく楽しみ。
いつもはプレゼントを受け取らない苺花がやっと受け取り、身につけてくれたと、ティンの嬉しそうなその時の顔は何度思い出しても胸がキューっと締め付けられてしまう。
毎回会う度にそのピアスに触れて満足そうに微笑むティン。
苺花が痛いと文句を言うとさらに嬉しそうに微笑むのだった。
二十歳の男性に言うことではないだろうけど、可愛すぎる。
苺花の少女のようだった童顔の頬は丸みがとれて、女性らしい雰囲気が漂っていた。
ティンという男性を知り、自分の身体への理解が急に深まり、段々と自分から発せられる匂いについてもコントロールができるようになっていた。
ティンと一緒にいる時は全開に芳香を放ち、それ以外の時は蓋をする要領で外に漏らさないようにできるようになったのだった。
まだ完全にとはいかなかったが、とても有難いことで、苺花の容姿で男性の目を惹くことはあっても、匂いにつられてストーカーの様に後をつけられたりすることが無くなったのだった。
ヨルさんに匂いをつけてもらわなくても自分の身を守れる様になった。
詩にも香りのコントロールについて報告した。
それはよかった!と自分のことの様に喜んでくれた。
こんなに会えない日々が続くことが、今までなかったので寂しかったが、夜自宅に帰ってから電話をしていた。
詩もバイトがない日はゆっくりと話してくれた。
日々のバイトの話を聞いていると、つい最近まで自分もそこにいたのに、まるでとても遠い昔のことのようだった。
大学にもほとんど行けていなかったが、そこもフォローしてくれていた。
ティンが帰国するまではなんとかしてあげると言ってくれたので、感謝するして素直に甘えることにした。
詩にだったら素直に甘えられる。
詩に何かあったら私絶対力になる!!
恩返しするからね!!
口に出さなくても心の中で固く誓う。