君の香りに囚われて
そういえば、幼稚園からずっと詩と一緒に過ごしているけど、詩の口から男の子の話とか恋の話って聞いたことがなかった。
実際ほとんど一緒に行動しているから、お互いに他の人と時間を過ごすことがまるでなかったしね。
詩は男の子とか興味がないのかと勝手に思っていた。
苺花は本やドラマの様な素敵な恋愛に密かに憧れてきたけど、縁がなかったし何よりストーカー行為に悩まされていたから、彼氏どころか男の子の友達なんて1人もいなかった。
唯一話せるのは詩の弟の千隼くらい。
自分もそんな感じだったので、詩の恋愛なんて思い付いたこともなかった。
詩はいつもおしゃれで、上品な洋服を好んで着ていた。
美容にも気を配っていていつもピカピカのお肌をしていて、指の先まで手入れを怠ったことがなかった。
そんなちゃんとした詩に憧れていた。
自分も詩のようになりたい!
と色々努力をしてみたけど
顔の形や雰囲気や身長や体型。
全然タイプが違うから、詩のようにはどうしてもなれなかった。
苺花から見ても憧れてしまう美しい詩だったが、
美しすぎるが故、男の子も気軽に声はかけられないようだった。
まさに高嶺の花、って感じ。
そんな感じでずっと一緒にいた詩が、昨日のバイトの帰り道は照山さんの話ばかりしていた。
あんなにキラキラと他人の話をする詩を見たことがなかった。
新鮮で、詩の表情ばかりをじっと見つめてしまった。
今まで彼氏がいたらきっと同じことがあったんだろうけど、それはなかったからやっぱり好きな男の子とかいなかったんだろうな、
と改めて思った。
詩は、
バイト初日、ひと目見て、
この人だ!
って分かったそうだ。
誰に対してもなんとなく身構えて、冷たく接してしまうんだけど、照山さんだけはあっさりとその詩の防御壁を乗り越えて心の中に入ってきたそうだ。
『運命ってあるんだなっ』
て思ったんだって。
聞いているだけで瞳がキラキラしてしまう。
すごいことだよね。
運命。
運命か、、、
そしてものすごく憧れてしまう。
詩が羨ましい!!
付き合っているってことは、照山さんも同じように詩を好き、ってことだものね。
太陽のような笑顔。
お父さんのような包容力。
美しい湖に浮かぶたった一艘のボートに2人、、、。
詩と見つめ合う照山さん。
湖面が太陽を受けてキラキラと輝いて2人を包んでいる。
わあ、なんて美しい光景なのだろう。
まるで一枚の絵画の様な。
、、、そんな想像をして思わず頬が緩んでしまう。
うん。すごく素敵!
歳は離れているけどとてもお似合いの2人だと思う。
照山さんは、詩の話をよく聞いてくれて、
悩み相談にもアドバイスではなく、詩の話の整理して、自分できちんと考えられるように誘導してくれるんだって。
答えはいつでも詩の中にあるんだよ。
って言ってくれるって。
大人だ!!
大人の落ち着いた男性との恋愛。
素敵すぎる。
私もそんな彼氏が欲しい。
大学の講義中だと言うのに、頬杖をついて苺花はニヤニヤとしていた。
講義の内容が全然頭に入ってこない。
始めたばかりのバイト。
幼なじみの詩の恋愛。
そして、ヨルさん。
モノクロだった苺花の毎日が急にキラキラと彩色されていくようだった。
全てが眩しくてワクワクする。
こんな気持ちになるの初めてだった。
今度は頬杖をついたままシャープペンシルを鼻に何度も当てながら天井を見上げる。
ヨルさんのことを考えると、胸の奥がキューっとなるようなものすごく甘酸っぱいような気分になる。
この感情は一体なんなんだろう。
初めて感じるものなので、自分でも戸惑ってしまう。
でもとても心地いい感覚。
ヨルさんの苺花を見る時の眼差しに慈しみを感じる。
優しく支えてくれた腕の感触温かさ。
包まれた時のあの香り。
帰りに小さく手を振ってくれた時の笑顔。
思い出しただけで
ほうっとため息が出てしまう。
そんな苺花の横顔を隣で詩が興味深そうに眺めていたのだが、本人はまるで気がつかずに百面相をしていた。