君の香りに囚われて
バイト先で嫌な目に合わないようにと詩が気を配ってくれていて、
店長の照山さんにも話しておいてくれたらしい。
シフトはいつも詩と一緒で
仕事内容も接客よりも料理の配膳とレジ、厨房の簡単なお手伝い、ドリンク作り、在庫の管理やお掃除などだった。
この配慮はとても有り難く苺花も心置きなく仕事に集中できた。
詩にいつも守られている。
段々と仕事にも慣れて、余裕も出てきた。
バイト先の人達とも気軽に話ができるようになっていた。
休憩中には、ヨルさんが出勤している時は必ずお喋りする。
ヨルさんの方も仕事の手を止めて苺花に付き合ってくれる。
韓国語にも興味が出てきたので勉強した成果をチェックしてもらうこともあった。
仕事に慣れてきても相変わらずヨルさんは苺花を気にかけてくれて丁寧に接してくれている。
今日もヨルさんは素敵な笑顔で
「苺花ちゃんの韓国語の発音とてもいいよ!」
と褒めてくれた。
ヨルさんが頭をポンポンと軽く撫でる。
会うとそうやって毎回ヨルさんは軽く触れてくるのだ。
ヨルさんの綺麗な長い指が自分に触れるたびに、そこがじんわりと熱を帯びるようだった。
少し恥ずかしいけど嬉しい。
そんな感情がきっと顔にそのまま出ているはず。
ヨルさんの香りが苺花の鼻先まで届いてくる。
密かに吸い込む。
香りと共にひっそりと苺花の心に入り込んでくるこの感情。
、、、ドキドキする。
苺花がとってもいい笑顔でヨルさんに微笑む。
ヨルさんに褒められると本当に嬉しい。
いつかヨルさんと韓国語でお喋りできるようになるといいな。
新たな目標が出来て毎日とても張り合いがあった。
バイトを始めたことで男の人にも慣れてきたのか、最近はその目線にも怯えて過ごすことがなくなっていた。
ショック療法?みたいなもの??
それに、苺花をあの目で見てくる人がいなかったのもある。
今まで、変に意識して男の人を避けてきたんだけど、逆にそれが男の人の気を引く原因だったのかな。
考えても分からないんだけど。
今はバイトというリハビリが効いているのかな。
いつも伏し目がちだった瞳が今は真っ直ぐ前を向いていられる。
ヨルさんの瞳も見返すことができる。
何かに守られているような感覚。
いつでも自分はヨルさんの香りに包まれているような。
不思議な感覚。
ヨルさんのことを毎日考えているからかな。
心が満たされるってこういうことなのかな。
詩が苺花の顔を見て
口角を上げてニッコリと微笑む。
「苺花。いい顔してる。
今までが嘘だったみたいに明るくなったよ。
すごい可愛いよ。」
だって!!
詩にはなんでもお見通しだよね。
詩も照山さんには同じような気持ちなのかな。
私も詩みたいにツヤツヤのほっぺをしているのかな。
思わず自分の頬に触れる。
まあるくて子供みたいな肌だな、
って自分でも思う。
詩の美しさにはとても及ばない。