君の香りに囚われて


 ヨルさんとの食事会の時、ティンと定期的に会って話し相手になって欲しいと最後にお願いされた。


同じ歳の苺花にならきっと素直に話ができると思うと。

普通の生活をしてきた女の子になら心を開くのではないか。

それはまるでヨルさんの祈りの言葉のようだった。


あくまで話し相手として!

と強調された感じもしなくはなかった。


でも、苺花もそこは心得ていてるつもりだったので、なんの問題もなかった。


最初、2人きりというのは苺花が不安だろうから、ティンのスケジュールを確認してヨルさんと3人で、ということになった。


今コンサートの準備で立て込んでいるところなのだが、ティンの精神状態がとにかく心配なのでできれば早めにしたいと思っているとヨルさんは話した。


苺花は分かりました。
ヨルさんと3人で会うなら。


と約束した。



断られなくて良かった、

とヨルさんは言い、苺花の返事に安堵の表情を浮かべた。


ティンが芸能人なので詩ちゃんにはもちろん誰にもこの話は伏せといてもらえる?

と釘を刺された。


まあ、確かにそうか。

苺花は元々誰にも言うつもりはなかったが、ヨルさんが釘を刺すのもよく分かる。


ティンが一般人と会っているだなんてとんでもないことだものね。


勘違いをされて騒がれるのは自分としても困ることだった。


自分の立場をわきまえて、話し相手に徹すれば良いんだよね。


うんうん、と苺花は1人で納得する。


詩にはその内落ち着いてからこっそり話せばいいか。

ヨルさんに口止めされてはいるけど、きっと詩に隠し通せるわけないんだもん。


詩はとても勘がいい。


苺花の隠し事なんてすぐに見抜いてしまうだろう。


長い付き合いだもの。



 それからすぐに連絡をもらって2日後に3人で会うことになった。

場所はヨルさんの会社が管理する不動産であるマンションの一室を使用するということだった。

ヨルさんのグループ会社の中には芸能事務所もあるので、ティンの所属事務所と日本国内の活動について提携を結んでいるそうだ。

そして今回は特にティンのケアのためにと韓国の事務所から懇願されてヨルさんが担当に急遽充てがわれることになった。

ヨルさんは通常業務の上にティンのサポートが加わることでさらに仕事に忙殺されることになったのだった。



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