知ってしまった夫の秘密
「佑、店を押しつけるみたいで悪いな」

「全然。自分の店を持つのが夢だった俺にとっては、ここを任せてもらえるのは光栄。願ったり叶ったりだよ。伯父さん、ばあちゃんを頼むね」


 佑さんがうらやましい。だって私はコーヒーソムリエのスクールにすら通えないもの。
 夢があって、自由に好きなことができる環境にあるのは幸せだと思う。
 
 私はなにと引き換えに自由を手放してしまったのか……。そんなふうにネガティブに考えてはいけないとあわてて思考を止めた。


 店のランチタイムは十五時までで、ディナータイムは十七時から。
 ランチタイムが終わると一旦店を閉める。手際よく全テーブルを拭いて清掃をしたところで、私の仕事は終了になるのだ。


「今日はけっこうランチのお客さん入ったな」


 アルコールスプレーで拭き掃除をする私に、佑さんがホールにふと出てきて話しかけてきた。
 

「千彰も休憩に入ったし、真琴さんも適当に上がってね」

「はい」

「なんか……元気ないな。旦那さんと喧嘩でもした?」


 当たらずとも遠からず。
 軽い冗談だったとは思うが、佑さんの言葉に思わず顔が引きつった。私がわかりやすく表情を曇らせたため、彼も自然と真顔になる。

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