知ってしまった夫の秘密
 村本さんは自分の耳元に手をやり、しずく型のピアスに触れてそれを小さく揺らした。
 それを目にした私の心には、真っ黒な感情がマーブル模様を描いていく。


「欲が出て、妻の座も欲しくなった?」

「はい。私のほうが女として愛されてますもん。ゴネないで離婚してください。彼に言っても話が進まないから、奥さんに直談判です」

「彼は私と別れてあなたと結婚したいのかしら?」


 不気味なほどニコニコしていた彼女だったが、私が尋ねた途端、わかりやすく顔がこわばった。

 ムカムカしながらも彼女の話を聞いていたけれど、最後の言葉に違和感を覚えたのだ。
 『彼に言っても話が進まない』
 村本さんは巡二に離婚をせがんだものの受け入れられなくて、業を煮やして妻の私に暴露しようと考えたのだろう。私から三下り半を突きつけるように仕向けるため。

 だとしたら巡二は離婚を望んでいなくて、彼女の一方的な願望ということになる。


「奥さんが去れば、彼は私だけのものになるの!」

「そう? 不倫関係を勝手に私に話すなんて、巡二が怒ると思わなかった?」


 村本さんは自分しか見えていない。かわいくて色気もあって、男性からすれば魅力的な外見だろうけれど、考えはずいぶんと短絡的だ。
 巡二が今の生活を壊したくないと考えているなら、彼女は現在とんでもないことをしでかしているというのに。それに気づいていなさそう。

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