知ってしまった夫の秘密
「巡二もコーヒーは好きでしょう?」

「俺はそこまで好きじゃないよ。普通に飲む程度だ」

「でもね、」


 私の話をさえぎるように巡二が椅子から立ち上がった。
 もう聞く気がないのは、夫の素振りからわかる。


「スクールに通うのだって金がかかる。無駄なものに金と労力を使ってどうするんだよ。それくらいわかるだろ」

「無駄って……」

「コーヒーは趣味の範囲で楽しめばいいじゃないか」


 巡二がわかりやすく顔をしかめた。私になにも言わせたくないとき、夫はいつもこの表情をする。
 私が委縮して発言できなくなるのを、夫は知っているのだ。


「仕事で疲れてるんだ。風呂に入らせてくれよ」


 言い逃げするように巡二がバスルームへと消えていく。
 それを見届けた私は、ハァーッと溜め息を吐きだしてテーブルに頭をもたげた。

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