知ってしまった夫の秘密
「俺みたいなオジサンより、佑みたいなイケメンシェフのほうが客足がよくなりそうだな」

 
 片桐さんは六十歳くらいだが、ダンディだし同世代と比べたらカッコいいと個人的には思うのだけれど。


「これを機に店のSNSを始めようと考えてるんだ。写真の撮影とかアイデアがあったら教えてほしい」


 佑さんの言葉に私は大きくうなずいた。
 今までは片桐さんがSNSは苦手だと言って手をつけてこなかったのだけれど、店を宣伝するには良い方法だから。

 毛先だけ茶色く染めている佑さんのパーマヘアはオシャレだし、スラリとスタイルもいい。
 イケメンな佑さんの写真を載せれば、たしかに女性客が増えそうではある。

 私のホールでの仕事はなにも変わらないとはいえ、オーナーが交代すれば少しずつ店が変わっていくのかもしれないな。


「ちなみに俺、ここに住むし」


 店の二階はスタッフの休憩場所や事務所として使っているが、一番奥にある部屋は片桐さんが私物を置いている場所だった。
 詳しく聞けば佑さんはそこに住みつくつもりのようだ。
 部屋は適度な広さがあるので、ひとりで暮らすなら問題ないだろう。
 週末に引っ越しのトラックが来て、家財道具一式が運び込まれるらしい。

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