架空女子でごめんね

今、徹平くんは。

『美鳥』の前で、初めて名乗ったんだから。



すずめだって、言いたい。

でも。



本当のことを言ってしまったら。

徹平くんはこんなふうに隣にいてくれる?

こんなふうにニコニコと笑ってくれる?



(ーーーダメ。耐えられない)



「わ、私は、……み、『美鳥』です」



隣にいたいの。

そばで笑っていてほしいの。

そうじゃない明日なんて、耐えられない。



恐る恐る徹平くんを見る。

変わらずニコニコとしていて、
「そっか。『美鳥』ちゃん……」
と、呟いた。



しばらく歩いて、私はハッとした。

このまま家まで送ってもらったら。

私が津山すずめだって知らせているようなもの。

……いや、覚えていないかな、徹平くん。

でも表札に思いっきり「津山」って書いてるし。



「あの、徹平くん」

「ん?」

「も、もう平気だから、送ってくれてありがとうございました」

「え?家まで送らなくて平気?」



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