架空女子でごめんね
歩くとなると、1時間は超えるかもしれない。
でも確かに、まだ明るい内に帰りたい。
暗い夜道をひとり歩くのは、怖い。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
先生や鍵探しを手伝ってくれた徹平くん達にお礼を言って、私は歩いて帰ることにした。
校門を出て。
空を見上げる。
赤く染まった雲達がぷかぷか浮いていた。
頬をかすめる、生ぬるい風。
「おーい」
大声で誰かが誰かを呼んでいる。
「おーい、待って!ねぇ!」
声が急速に近づいてきた。
でも私は、まさか自分が呼ばれているなんて思いもしなくて。
背後からやって来た自転車が目の前でキュッと音を鳴らして止まって、初めて足を止めた。
自転車には徹平くんが乗っている。
驚いて、「えっ」と呟いた私の声はかすれていた。
「あの、ごめん。名前、知らなくて……。呼ぶにも呼べなくて」