架空女子でごめんね
「後藤っ」
徹平くんの大きな声。
「な、何!?何だよ!?」
後藤くんの手が離れる。
その隙に。
私は走り出した。
(逃げなくちゃ)
一生懸命に走った。
後ろは振り向かずに。
止まらず、走った。
家の前まで来て。
ゼーハー言いながら。
もつれそうな足を、止めた。
額に流れる汗を拭って。
私は後ろを振り向いた。
あの日。
徹平くんに恋をした、あの日。
私はここで。
ときめきの魔法に包まれた。
自転車を止めて振り返った、あの日の徹平くん。
片手をあげて、私に手を振ってくれたよね?
『またな!すずめちゃん』
私の心には。
あの日と変わらず。
星空みたいな恋心は、確かにあるのに。
「……ごめんなさい」
呟いた言葉は、今。
誰にも届かない。