架空女子でごめんね
『徹平くんのいる所に行ってもいいですか?』
さっきは逃げたくせに、と心の中で自分に毒づく。
少しの間があって、
『いいよ。迎えに行こうか?』
と、返事が来た。
『大丈夫、すぐに行きます』
私はスマートフォンだけを持って、家を出た。
もう外は暗くて。
ぽつぽつと明かりが灯っていく。
(恋心の景色だ)
そう思いながら。
私は徹平くんのいる駅前までの道を走った。
メイクをしていない。
『美鳥』じゃない、私のままで。
ぐんぐん走って、歩道橋のところまで来た。
階段を上がったところで。
徹平くんが向こうから歩いて来てくれた。
「……て、徹平くんっ」
思わず呼んでしまう。
徹平くんは。
歩みを止めた。
私をじっと見ている。
(な、何?)
もしかして。
『美鳥』が私だって。
まだ分かっていないのかな。
……いや、そんなわけないよね?