リピートする世界を人魚姫は揺蕩う
 結局、私は自分をあざむけなかった。



「ごめんなさい……」

 瞳に光のない王子様を城の近くの浜辺まで送り届ける。
 今日も波は穏やか。
 強くなった日射しに水面がキラキラ輝いている。
 それに負けず劣らず、王子様もきらめいている。

 私の言葉に反射的に彼は、私の頬に手を当て、キスで慰めてくれようとする。
 
(手放したくない。でも、手放さないといけない)

 未練がましく彼の背中に腕を回し、キスを受ける。
 唇が離れたとき、パチンと魅了を解いた。

「さようなら」

 私は後も見ず、海へと帰った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 それからしばらくの間、私は海底に引きこもった。
 なにもする気になれなくて、こんなことなら、海の泡になったほうがましだったとさえ思う。
 王子様と過ごした部屋にいるのがつらくなり、部屋を変えた。
 それでも、なにをしていても、想うのは彼のことばかり。 
 そのうち、こらえきれず、海の上に行くようになってしまった。

 ──そっと彼の様子を見たいだけ。元気にしているかどうか確認したいだけ。

 自分をごまかし、海の上をうろつく。
 でも、王子様の姿はどこにもなかった。

(もう拐われないように警戒しているのかもしれない。海には近づかないように。正しい行為だわ)

 もう会えない。
 今さらながら、絶望に埋めつくされた。
 甘い夢を見たからこそ、今までの生で一番の絶望。
 この喪失感をかかえ、いつまで生きたらいいのだろう?
 今度こそ、海の泡になって消えてしまって、二度とリピートしないといい。風の精になって、彼のまわりでそよぐという話もあったけど、そんな地獄はごめんだ。
 私は好きな人が他の誰かに愛しげな目を向けているのを見ていられるほど、寛容ではない。

 それでも、あとひと目だけでも見たい。遠くからチラリとだけでもと、未練がましく海上に通ってしまう。


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