神様、この恋をよろしくお願いします。
もうすぐ遠足が終わる。

水族館から出てきたら、あとはバスに乗って帰るだけ。

「…まだ少し時間あるかな」

水族館から出て来ると同じように戻って来た人たちはたくさんいたけど、点呼前ってこともあってまばらだった。

あと10分ぐらい、集合時間に早いかな。 

あと10分…
せっかくだから悠と話していようかな。

「楽しかったね、水族館」

「まぁな」

「楽しかったんだ!興味ないって言ってたのに!」

「…っ」

ばつが悪そうに唇を噛んだ姿にくすくすと笑ったら、ふんっとそっぽを向かれた。

「楽しかったなら来てよかったね!」

よかった、あたしも。

来てくれて、よかったもん。

ふわっと風が吹いた。

相変わらず海風は強いんだから。

ふと思い出した。

風に揺れる海を見て。


“橋を一緒に渡ると結ばれるってジンクスがあるらしいよ!”


あっちゃんに教えてもらったあれを。

「ねぇ、悠!橋…っ!」

「は、橋?」

いや、ここでいきなり橋一緒に渡ろうっておかしい!
もう帰る時間なのに小島に渡って何するんだって話だし、急に誘うってもし悠があのジンクスを知っていたら…!

「橋が何?」

「………。」

眉を中心に寄せる悠を見て思った。
悠が知ってるわけないよね。

「ううん、なんでもない!」

「橋がなんだよ…」

「なんでもないよ!」

この話はここでやめとこう。これ以上何か言って余計なこと口走るのもあれだしね。

「ふーん、別にいいけど。橋の上の鳥がすごくてすげぇ気になったけど」

「え、うん…」

「見てなかった?渡った時」

「見てた、…よ?」

………あ、そっか!

私一緒に渡ってたんだった!

「健太があれは海鳥って言ってたんだけど、そのまんま過ぎじゃね?ネーミングセンスどうなってんだよ」

そう、委員長と一緒だったけど!

3人だったからって、ないことにしようとして忘れてた!

「それとも健太がテキトーなこと言ってんのかな」

“一緒に”

…渡ったよね?

「あれはほんとに海鳥だよ!」

「へぇ、マジなんだ」

一度無効にしたあのジンクス、やっぱり有効にしてもらえるかな?

訂正してもいいですか?



神様、もう一度聞いてもらってもいいですか?



ねぇ、神様。



あたしの恋も叶えてもらえますか。



心の中で手を合わせてぐっと願いを込めた。



神様、この恋をよろしくお願いします。
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