神様、この恋をよろしくお願いします。
もんもんと思いながら上靴を履き替え、校門に向かおうと玄関を出た。

ナナと天貴くんにばいばいと手を振ろうと、右手を上げた時だった。

「あ」

同じように帰ろうとしていた悠に会った。

今日も教室に来たり来てなかったりで、帰りの会の時はいなかったから…たぶんいつものとこにいたんだと思う。

パチッと一瞬あたしと合った目を、すぐにまるでなかったことのように逸らした。

「なんで!?」

あまりに自然だったから、呼び止めるように反応しちゃった。後ろでナナの視線が気になったけど。

「なんでって、別に用もないだろ」

「あるよ、例えば“ばいばい”とか“さよなら”とか」

「…“ばいばい”」

無理やりな“ばいばい”が返って来た。

なんでそんな気だるそうな“ばいばい”が言えるの?
あたしは今ちょっと嬉しかったのに。

「小夏、やっぱ一緒に帰ろう」

ぐいっと後ろからナナがあたしの腕を引っ張った。

さらにその後ろからゾクッと震えるような声が飛んできた。

「金髪!」

聞いたことある、その呼び方にその声。

さっきまで噂していた怖い先輩たちだ。

3人ぐらいでぞろぞろと悠に近付いていく。

それと反対にナナの腕を掴む手は強くなった。

「お前、暇?」

ジロッと悠の方を見た。

悠より背の高い先輩は見下ろすように、それがよりゾクッとした。

「…暇だけど」

それなのに悠の態度は一切変わらない。

「じゃあちょっと来いよ」

ニヤッと笑う先輩は他の先輩に目配せをし、うんと頷いた。

ダメだ!絶対ダメ!
絶対嫌な予感しかしないやつだよ!

それに気が付いたナナのさらに力の強くなった腕に引き寄せられた。

「いいけど」

よくないよ…!?

と、止めた方がいいよね?
怖い先輩からの呼び出しだよね!?

だってもしかしてこないだあたしが悠を連れて逃げたことが原因なんじゃないの!?

「ゆっ」

名前を呼ぼうと思った。
 
でもナナに口をふさがれ、天貴くんの力まで加わって身動きが取れなくなった。
ナナも天貴くんも精一杯気配を消すように息をひそめていた。

「…っ」

目で訴えてみたけど、あたしの追いかけた視線に目もくれないで悠はスタスタと先輩たちと行ってしまった。

全くこっちを見ないで、あたしはその背中をずっと見ていたのに。

どうしよう、追いかけた方がいい?
でもあたし1人でどうにかなるものなの?

今度こそ何かあるかわからないし…っ

「帰ろう、小夏!」

「えっ、ま…っ」

「早く帰った方がいいな、今日は!」

ナナに腕を引っ張られ、天貴くんに視線を遮られ、逃げるみたいに学校から出た。出ちゃった…
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