神様、この恋をよろしくお願いします。
「じゃあ、行くか」

「え、どこに?」

「どこって、教室の他にあんの?」

ないけど!

それはないけど、でもすでに2時間目が始まるチャイムは鳴り終わってる。今行っても確実に遅刻だし、てっきり今日はサボるんだと思ってた。

リュックを背負った悠が立ち上がる。
本当に行く気らしい。

なんでそんな中途半端に行く気はあるの?

あたしはもう今から行く気になれないよ。

それなら、それならもっと…

「…毎日教室来てよ」

「え、なんで?」

「普通そーゆうもんだし」

「へぇ」

それもあるけど、てゆーか本当にそうゆうものだけど。

すくっと立ち上がって、悠の前に立った。

「あたしに…会いに来てよ」

「……。」

目が合ったまま、じっと、すぐには返って来ない返事にまたドキドキしちゃって。

もっと何か言った方がいいのかなって、ぎゅってスカートの裾を握って焦る気持ちを抑えた。

「…いいけど」

「いいの!?」

「普通そーゆうもんなんだろ?」

「あ、え、そっち!?」

勝手にいい方に思い込んじゃったのかと思って恥ずかしくなるあたしを見て悠が笑った。

2回目、そんな顔を見るのは。

「今のっ」

キーンコーンカーンコーン…
と絶妙なタイミングで2時間目が終わるチャイムが鳴った。

「行くか」

空気を読まないチャイムめ、もう少し待ってくれたらいいのに!

でも…いいんだよね?

来てくれるんだよね?

あたしに会いに…

そしたらやっぱ嬉しくなっちゃって、顔が緩んじゃう。

「悠は委員長も言ってたけど、誤解されることが多いんだよ!もっとクラスの子とも仲良くなれば変わるよ!」

「別にそれでいいし」

「でも怖いと思ってた先輩たちも委員長のお兄ちゃんだったわけだし」

教室に向かう悠を追いかけるようにあとをついた。

「だけど、あの人たちがやばいことには変わりないし」

「……そうなの?」

「よくはないだろ」

そうなんだ、仲良いから大丈夫とかじゃないのかな。委員長のお兄ちゃんだからって勝手に安心しきてったし…

「…でも悠が誤解されてることはいっぱいあると思うけどなぁ」

悪いイメージは知らないところでどんどん大きくなってたりするし、あたしもまだ勘違いしてることあるかもしれないもん。


“去年男子トイレの鏡割って問題になってた!” 


「ねぇっ、前に聞いたんだけど!男子トイレの鏡割ったって、それは本当に悠なの?濡れ衣着せられたりとかしてないの!?」

そうだ!あれだって噂が独り歩きしてるだけかもしれないもん!悠がそんなことするはずないよ!

「それは本当」

だけど、思っていたより低い声で返って来た言葉にちょっとだけ胸が痛かった。

「…なんで割ったの?」

「鏡、見るの好きじゃないから」

「え…?」

そんな理由なの?
そんな理由でいいの?

よくないよね!?

やっぱりあたしはまだ悠のことがわからないよ。
< 59 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop