神様、この恋をよろしくお願いします。
それから悠は学校へ来なくなった。


あの体育館裏にも、何度も行ってみたけどあの日以来―…

学校には毎日来てるって言ってたのに、嘘つき。

「今週ずーっと雨だよ、萎える~!今もパラパラ降り始めたしさ~!」

「梅雨に入ったもんね」

「可愛い傘とか買おうかな、テンション上がるかもしれないよね」

「いいね、それ」

「今度一緒に買いに行こうよ」

「うん」

掃除場所が体育館になった。

モップで床をクリーニングする、隣でナナが話すことにとりあえず相づち打ってみたり返してみたり…でも頭の中では雨が降ったら余計に体育館裏には来ないんじゃないかって不安に思ってた。

もう学校には来ないのかも。

あたしにも会いたくないんだ。

「小夏…」

「何?あ、傘!いつ買いに行く?おそろいがいいよね!」

「大丈夫?」

「え?」

「最近、元気ないよね」

「そんなこと…、ないよ」

精一杯笑って見せた。
笑ってたつもりだった。

「相沢が…いないから?」

でも名前を聞いたら自然と涙がこぼれて来ちゃって。

「……っ」

自分で自分のコントロールができない。
どこにこんなに涙が溢れるスイッチがあるんだろう。

「小夏…っ」

「あたし…何ができたのかな、ただの中学生だし、これと言って優れたところなんかないし」

何がしてあげられたのかな。

何をすればよかったのかな。

でも負けないと思ってたの。

この気持ちだけは誰にも負けないって…

「好きなだけじゃダメなんだね」

拭っても拭っても溢れてくる、これはあたしの想いだよ。

悠を想ってる、あたしの気持ちなの。

どうして伝わらないのかな?

「悠がどんどん離れていっちゃう…」


“悠は足りないものが多いから”


あたしがあげたいのに、あたしじゃ足りないの?

いっぱいいっぱい愛を伝えるよ。

悠がもういらないって、笑って返してくれるまで。

「小夏…、ごめんっ」

ナナがあたしの手を握った。
なぜかナナも辛そうに、瞳を潤ませていた。

「小夏がそんなに相沢のこと想ってるなんて知らなくて…、いつも反対ばかりしてた。ごめんねっ、私のことは応援してくれてたのに力になってあげられなくて」

「ナナ…」

「相沢のことはよく知らないけど、小夏のことは知ってるつもりだった。知ってるつもりだったのに…っ」

「ううん…」

ナナの両手があたしの右手をぎゅっと包み込む。 

願うように、手を合わせて。

「小夏…、小夏には私がいる。だから小夏は自分の気持ち、諦めないで!」
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