夫の一番にはなれない
「引き留めちゃってごめんなさいね」
「いえ。では、お先に失礼します」
車で10分程度で着いてしまう、それほど長くない道のりを毎日一人で帰る。
同じ職場に同じ家に帰る人がいるのに、この数か月の孤独感はひときわだった。
家では一人分の夕飯を作って、一人でそれを食べる。
わたしたちは夫婦なのに、一度も一緒に食事をしたことがなかった。
これは結婚するときに決めた、わたしたち夫婦の掟5か条の決め事だった。
一.家賃や光熱費等の生活に必要な経費はすべて折半すること
一.寝食は別々にすること
一.お互いを干渉しないこと
一.外では仲のいい夫婦を装うこと
一.1年後に離婚すること
これが、わたしたちが決めた掟5か条だった。
わたしたちは形式上は夫婦であるけれど、決して夫婦ではなかった。
決して不自由な生活というわけではない。
仕事も充実しているし、一人の時間は趣味に費やして、自由に過ごすことができる。
決して不満があるわけではない。
それなのに、さみしさだけは埋まることはないのだ。
愛のない結婚をしたわたしたちだから、決してそのさみしさは今後も埋まることはないだろうけれど。