夫の一番にはなれない



結婚の提案だって突拍子もないものだったけれど、元をたどれば彼女のためだったんだし。

來にこれだけ想われている彼女が、少しうらやましかった。




「來は今日珍しく仕事ないの?朝からのんびりしているけど」


普段なら自室にこもって仕事をしているか、部活に行っているかのどちらかなのに。


「今はテスト前で部活はないし、テストも作り終わったから急ぎでやらないといけない業務は今ないんだ」

「そうなんだ」


朝からこんなに会話が続くのは初めてかもしれない。

しかも生徒じゃない話題で会話が続いている。


昨日の“あの時”から、少しだけ來に変化が見られた気がした。


「今日、これから気分転換にどこか行くか?」


それにこんな提案をされるなんて、予想外すぎてすぐに返事が出来なかった。

本当に今日の來はどうしちゃったの……?


「一緒に出掛けるってこと?」

「ああ、嫌か?」

「嫌ではないんだけど、珍しいね。來が誘うなんて」

「今日は特別だって言ったろ?」


あの言葉は朝ごはんだけじゃなかったんだ。

まるで夫婦ではなく、付き合いたての恋人同士みたいな気分になった。




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