夫の一番にはなれない
こんな些細な何でもない会話なのに、それができるという喜びがひときわあった。
今までにはなかったからかもしれない。
たとえ、それが同情からくる優しさだとしても、わたしは今のこの状況を堪能したいと思った。
「ねえ、來。この漫画何巻まであるの?」
「52巻」
「そんなにあるの!?よく一気に買ったね。一日じゃ読み切れないよ」
「いいんじゃない?ゆっくり読んでいけば」
生徒から勧められて買ったという漫画は意外と面白くて、最初の10巻はあっという間に読んでしまった。
それにしても、來は本当に休みの日でも生徒のことを考えているんだなあ。
日常の何気ないことを、授業のために生かしたり工夫したりすぐ材料にしてしまうなんて。
いつも生徒のためにまっすぐな來を、わたしが支えてあげたい。
そんな欲が漫画を読むにつれて出てきたことに、わたしはどこまで気づかないふりができるだろう。
「夕飯どうする?」
「わたし、何か作ろうか?簡単なものでよかったら、すぐに作れるよ」
「いや……何か買ってくるよ。奈那子も弁当でいい?」
「え、わたしの分も買ってきてくれるの?じゃあ、お願いしちゃおうかな」