夫の一番にはなれない



こんな些細な何でもない会話なのに、それができるという喜びがひときわあった。

今までにはなかったからかもしれない。

たとえ、それが同情からくる優しさだとしても、わたしは今のこの状況を堪能したいと思った。


「ねえ、來。この漫画何巻まであるの?」

「52巻」

「そんなにあるの!?よく一気に買ったね。一日じゃ読み切れないよ」

「いいんじゃない?ゆっくり読んでいけば」


生徒から勧められて買ったという漫画は意外と面白くて、最初の10巻はあっという間に読んでしまった。

それにしても、來は本当に休みの日でも生徒のことを考えているんだなあ。


日常の何気ないことを、授業のために生かしたり工夫したりすぐ材料にしてしまうなんて。

いつも生徒のためにまっすぐな來を、わたしが支えてあげたい。

そんな欲が漫画を読むにつれて出てきたことに、わたしはどこまで気づかないふりができるだろう。



「夕飯どうする?」

「わたし、何か作ろうか?簡単なものでよかったら、すぐに作れるよ」

「いや……何か買ってくるよ。奈那子も弁当でいい?」

「え、わたしの分も買ってきてくれるの?じゃあ、お願いしちゃおうかな」




< 35 / 70 >

この作品をシェア

pagetop