夫の一番にはなれない



「いえ、わたし……」

「奈那子」


まさかここでその声が聞こえてくるなんて思ってもみなかったから、最初は幻聴かと思った。

それか声だけとても似ている人。

でも、振り返るとそこには眼鏡をかけた來が立っていたのだ。


普段はコンタクトで、いつもはお風呂上りしか眼鏡をしないのに。

そのだらけた感じが、逆にドキッとした。


「來……どうして、ここに?」

「どうしてって奈那子を迎えに来たに決まってるだろう?」


何がどう決まっているんだ……

今まで一度だって、迎えに来てくれたこともなかったのに。


「旦那さん?」

「あ、はい。夫が来たので、お先に失礼しますね」


突然来た來は律儀に頭を下げている。


どうしてここに来たんだろう。

本当に迎えに来てくれただけ?


訳が分からないまま、早川先生と目が合って、笑顔で手を振る彼女に、手を振り返すだけで精いっぱいだった。





「ねえ、來。どうして迎えに来てくれたの?」


真夜中を2人で歩くのは初めてだった。

夜の散歩みたいで楽しいような、でも頭の中は複雑だった。




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