夫の一番にはなれない
「ほら、桜丘高校の先生との食事会。滝川先生、心配で迎えに来てたじゃない」
「あー……」
結局、あのお迎え事件は、どうしてわざわざ来てくれたのかという理由ははっきりわからないままだった。
來はあの時、「男と食事するって黙って行かせる夫がどこにいるんだよ。俺たちの仲を疑われるだろ」と言っていた。
でも、あの後の來の言動を振り返ると、本当にそう思っていたのかは怪しい。
だから、考えても結果は出なくて、結局よくわからなくなってしまったのだ。
「食事会は許してくれたのに、結局心配だったのね。滝川先生も奈那子先生のことになると、ヤキモチ妬くのねえ」
早川先生は「ごちそうさま」と言って笑っている。
わたしもできれば、早川先生が思い描いているような夫婦になりたいと思う。
できれば、來と――
でも、わたしは桜丘高校の先生の名刺を今でも大事に持っている。
もちろん來と夫婦を続けられることになれば、転職を考えなくてもよくなると思う。
でも、來に提案を断られる可能性だってある。
來は真面目な人だから、きっと最初に作った決まりを全うしようとするかもしれない。
だから、その時のためのお守りのようなものだった。
その先生の名刺を持っているのは――