夫の一番にはなれない



また2人の話をそれぞれ聞いて終わるだけかと思ったけれど、今日はいつもと違うことが起こった。


「おーい、職員室まで声が聞こえてるぞ」


普段なら保健室で騒いでいる生徒の声が聞こえると、教頭か2年の学年主任がすっ飛んでくるのだけれど……

この日はなぜか來が真っ先にやってきたのだ。


「あ、滝川センセイだ!やっほー」


呆れ顔の來に幸さんが能天気な返しをすると、来はさらに頭を抱えた。

先生にこんな返しができるのは幸さんくらいかもしれない。

なかなかの大物だ。


「やっほーじゃない。ここは保健室で騒ぐところじゃないんだから、もう少し静かに」

「はーい」


のんきな幸さんに対し、来が部活の顧問だからか大樹くんは背筋をすっと伸ばして直立している。

その様子に思わず笑ってしまいそうになると、來と目が合った。


「あ、そうだ。滝川センセイも聞いてよ」


彼氏の緊張を余所に、幸さんは自分たちの揉め事に來も巻き込もうとしている。

結局わたしたち夫婦は、この日あるカップルの相談を受けることとなったのだ。



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