夫の一番にはなれない



「あのね、センセイ。この前、大樹の誕生日だったから、手作りのケーキを作ってあげたんだけどね」


幸さんの言い分はこうだった。

彼氏の誕生日にはりきって手作りのケーキを作ったら、あまり喜んでもらえなかったと言う。

しかも「前に作らなくていいって言ったじゃん」と渋い顔をされたらしい。


「ね!ひどいと思わない?私、一生懸命作ったのに」

「そっか。その言葉に幸さんは傷ついたんだね。ねえ、大樹くん。どうしてそんなこと言ったの?」

「だって、俺は前からいらないって言ってたんだ」

「もしかして、甘い物嫌いなの?」

「そうじゃない」


結局大樹くんは、それ以上何も言ってはくれなかった。

きっと彼の中には、あんな言葉を言ってしまった理由が何かあるはずなのに。


言いたくない理由なのか、それとも――

ちらっと來を見ると、真剣な表情で大樹くんを見つめていた。




< 61 / 70 >

この作品をシェア

pagetop