身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

「すみません、お待たせしました」
「いや、来てくれてありがとう。荷物持つよ」


 以前から冷たそうな見た目によらず紳士的な彼は、とてもスマートに私の荷物を持ってくれる。子供がいるとどうしても持ち物が多くなるからありがたい。


「ありがとうございます。これ、お弁当なんです。よかったら一緒に食べませんか?」


 重箱を入れた袋を掲げて緊張気味に言うと、嘉月さんは真顔のまま片手で口元を覆う。


「感動で涙腺が……」
「全然顔に出ませんね」


 昔のように遠慮なくツッコんでしまい、お互いにぷっと噴き出した。

 こんなふうにまた笑い合えるなんて。私を愛してくれている彼ではないけれど、やっぱりこうしていると心がほっこりする。

 それから嘉月さんはこの間のようにしゃがみ、「昴くん、こんにちは」と挨拶した。目を合わせた昴はすぐに私の後ろに隠れ、しかもなぜかじとっとした目で嘉月さんを見る。

 挨拶はどんなときも必ずしなさいと教えているのに、この態度はいけない。


「昴、〝こんにちは〟は?」
「そんなに睨まなくても……」


 注意する私と、嘉月さんのしょぼんとした声が重なった。しかし、彼はすぐになにかに気づいたようで、昴に向かってゆるりと口角を上げる。
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