身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
「心配しなくても、ママを取ったりしないよ。仲よくしよう」
あ……そういうこと?と、はっとして見下ろす。私が男性とふたりで会うのは昴が産まれてからは初めてだし、子供ながらになにかを感じ取ったのかもしれない。
むすっとしていた昴だが、嘉月さんの言葉と微笑みで少し気が変わったらしい。嘉月さんがパーにした手を向けると、昴もおずおずと手を伸ばしてタッチをした。
ほんの少し打ち解けたように感じたからか、嘉月さんの表情が嬉しそうに緩む。ふたりが触れ合うのも感慨深くて、私もちょっぴりじんとした。
昴を真ん中にして三人で歩き始める。前に夜桜を見た汐入公園を目指して、見事な桜のトンネルが出来上がっている大踏切通りをゆっくり散歩して向かう。
その最中、風船を配っていたのでひとつもらったのだが、他のことに気を取られていた昴は手を離してしまった。
幸い桜の木の枝に引っかかって止まったものの、当然自分には取れないので昴は瞳をうるっとさせる。私も、ジャンプしても届かなそうな高さだ。
そんな時に頼りになるのはやっぱり嘉月さん。「大丈夫だよ」と言い、昴をひょいっと肩車して風船を取らせてくれた。